かながわ地域日本語教育フォーラムを開催しました。
テーマ:職場における外国人とのコミュニケーションを考える
神奈川県では、多文化共生をめざし、地域日本語教育の取組を進めています。今回のフォーラムでは職場内の「コミュニケーション」にフォーカスし、登壇者から企業で働く外国人の現状、課題や取組等を共有していただき、職場における日本語教育やコミュニケーションのあり方について考えを深める機会としました。
- 日時
- 令和5(2023)年1月29日(日)14時から16時
- 開催方法
- Zoomによるオンライン開催
- 参加者数
- 97名
- (神奈川県内外の地域日本語教室ボランティアの方、日本語学校教職員、自治体、国際交流協会、NGO・NPO職員など)
- 進行
- 藤分 治紀(公財)かながわ国際交流財団/地域日本語教育総括コーディネーター
- プログラム
- (1)基調講演「職場における外国人とのコミュニケーションを考える」
東京都立大学人文社会学部教授 丹野 清人 氏
(2)事例発表①「介護現場 役立つ日本語」
公益社団法人横浜市福祉事業経営者会 事務次長 福山 満子 氏
留学生(ミャンマー出身)メイ ピュー シン 氏
事例発表②「職場における外国人とのコミュニケーションを考える-企業支援の立場から-」
内定ブリッジ株式会社 代表取締役CEO 淺海 一郎 氏
(3)トークセッション
(1)基調講演「職場における外国人とのコミュニケーションを考える」
東京都立大学人文社会学部教授 丹野 清人 氏
日本で働いている外国人には、日本語を学ぶインセンティブを見出すことができない人が多いという現状がある。また、工場や現場で働く外国人に必要な日本語は専門的な言葉が多く、日本語学校や書店で売られている日本語のテキストで学ぶのは難しい。このことから、働いている外国人に日本語を学んでもらうことはハードルが高いということを前提として知っておく必要があるというお話がありました。また、外国人社員向けに日本語教育を導入した企業の中には、「不良品や労災を減らすことができた」「日本人側の負担が軽減され、生産性が向上した」といった具体的なメリットを実感している事例もあり、外国人が日本語を学ぶ利点を考える必要があるのは雇用主側であること、職場で外国人とコミュニケーションを取れるようにすることは、ビジネスと密接に結びついた投資でありコストではないというお話もしていただきました。
(2)事例発表①
「介護現場 役立つ日本語」
公益社団法人横浜市福祉事業経営者会 事務次長 福山 満子 氏
留学生(ミャンマー出身)メイ ピュー シン 氏
横浜市福祉事業経営者会は、外国籍県民等を対象とした介護職員初任者研修や介護現場で役立つ日本語講座を10年以上開催しており、在留資格をもつ外国籍の方の他に、留学生、インターシップ生などの受入れ実績があります。日本語講座では生活背景や来日経緯、学習過程を理解し、自ら学ぶ力を育むことに寄り添いながら、人と人をつなぐ架け橋という使命感を持って研修を開催しているとのお話がありました。
ミャンマーの留学生で、福祉専門学校に通いながら介護施設でアルバイトをしているメイさんからは、専門学校で習う専門用語とアルバイト先で使う用語が違ったり、職員同士で使う言葉(「配膳」「下膳」等)を利用者さんには使わなかったりするところが難しいというお話がありました。また、日本語は敬語や尊敬語など立場によって使う言葉が変わるところも難しいが、日々、たくさんの学びがあるといったことをお話しいただきました。
公益社団法人横浜市福祉事業経営者会 http://www.y-hukushijigyo.or.jp/html/top_page.php
(2)事例発表②
「職場における外国人とのコミュニケーションを考える―企業支援の立場から―」
内定ブリッジ株式会社 代表取締役CEO 淺海 一郎 氏
企業が外国人を採用する上で重視していること、採用後の課題のどちらもが「日本語能力、日本語でのコミュニケーション」である一方で、雇用主(日本人)側の指示の出し方や日本語の曖昧さなどを挙げ、雇用主(日本人)側の日本語にも課題があることを意識する必要があるとのお話がありました。関係閣僚会議の「外国人材受入れ・共生のための総合的対応策(令和3年度改訂)」に『職場等における効果的なコミュニケーションのため受入れ側の環境整備を図ることが重要である』との一文が反映された経緯をご説明いただき、「外国人従業員が働きやすい職場は日本人にとっても働きやすい職場」ということについて事例を交えてお話をしていただきました。
内定ブリッジ株式会社 https://naiteibridge.com/
(3)トークセッション
視聴者から「地域の日本語教室に対して、お金のない企業から外国人従業員に日本語を教えて欲しいという依頼があった」「地域の日本語教室に実習生がたくさん来ていて、実習生のための日本語教室になっている」「建設現場の専門用語を勉強したいという外国人に日本語を教えたことがあったが、建設の専門用語が難しくて大変だった」など多くのご質問やご意見、ご感想をいただきました。
丹野氏からは「地域の日本語教室に企業を巻き込むように働きかけてみる、ポイントは大企業を選ぶのではなく、地域の顔役になっている企業に相談してお願いすること」「(厚生労働省が様式を定めた)ジョブ・カードを外国人も利用できるようにしていくと、専門用語などの問題も解消できる可能性があるのではないか」といったお話がありました。また、淺海氏からはスウェーデンでの移民に対する職業支援等についてお話しいただき、福山氏やメイピューシン氏からは介護現場の現状についてお話しいただきました。
登壇者の皆さんの感想と視聴者の方へのメッセージをいただきました
〇まとまった議論ができたと思う。お金をかけなくても解決できることはある。例えば、企業のグッドプラクティスを自治体等のホームページで紹介するなど。中小企業にとっては自分の会社の取組が公的なところに出ることは親会社や取引先にとって大変なアピールになるのではないか。お金をかけることも重要だが、どうやったら今の資源で協力してくれる企業を取り込めるかを考えてほしい。(丹野氏)
〇丹野先生と淺海さんのお話はとても勉強になった。県内の介護現場で働きたい人をひとりでも多く支援していきたい(福山氏)
〇このような機会をいただいて大変勉強になりました。ありがとうございました。(メイピューシン氏)
〇行政でいうと縦割り、教育でいうとステークホルダーとの連携不足、つまりは自分のフィールドだけでは働いている外国人の支援はできない。どうやって他者を巻き込みながら連携していくかが課題。総合的対応策に60カ所以上に「連携」というキーワードが入っていることが、それを象徴していると思う。ひとつの省庁、ひとつの自治体だけではできないし、一人では全然できない。そこが働いている外国人を支援する際に一番難しいところだと思う。今日みたいなイベントは非常に有意義である。今後も皆さんの意見や知恵を出し合いながら建設的な議論を進めていけるとよいと思う。(淺海氏)
■ 参加者の声
参加者の皆さまの声を一部ご紹介します。
- 日本人側の日本語を考えることも取り入れつつ、自治体、企業、地域の教室など多くが連携していくのがいいのでしょうね。また明日からがんばろうと思います。
- 企業側に日本語教室の会員になってもらうことで費用負担をしてもらう、ジョブ・カードを利用するなど、発想や工夫、連携が必要な分野であるということがよく分かりました。
- 外国人就労者への日本語支援に関わっている講師として、気づかされることや明日からのヒントがたくさんありました。
- 神奈川県で外国人の社員を雇用している多くの方に聞いてもらいたいなと思いました。
- 相手は外国人なのだから、ネイティブと同じレベルを求めるのは無理だと思っても、現場で実際に求められる能力は高いと思う。日本人の側が、もっと外国人慣れする必要があると思う。今日は日本人を巻き込んでの日本語教育にも触れられており、共感した。
- 日本語ボランティアとして、学習者さんに伝わる日本語、やさしい日本語を心掛けていますが、難しさを感じています。地域のニーズに合った日本語を教える方法を日本語ボランティアが集まって、事例など話し合える機会をこの様なオンラインで、今後考えて頂けると有難いです。