外国人生徒・保護者によくある不安や思いこみ
進学に関する多様な情報に触れる機会が多くない外国につながる生徒が、自分の力だけで高校のことを調べるのには限界があります。先生や友人などに「分からない、助けて」と言えないと、進路先を狭めてしまいがちです。
また、外国人保護者や生徒は、定時制高校や私立高校への進学に先入観をもっていることがあります。出身国や地域によっては夜間の通学を心配したり、学費などの経済的事情で躊躇するかもしれません。三者面談では、進学先高校と併願校の選び方や、私立高校に進学した場合の学費や就学支援金の制度についても説明し、保護者の不安を解消していきましょう。進路先について、生徒と保護者が一緒に考えられる機会をつくることが大切です。
公立の全日制だけでなく、定時制や通信制、私立高校など、それぞれの特徴や受けられる支援の情報を提供しながら、生徒に合った進路先を見つけていきたいですね。
いっしょに足を運べば、豊かな進路指導に
~ある国際教室担当教員の経験から~
中学3年のジェニファーさんは、来日して3年目。日本語に不安があり、進学先を悩んでいました。在県外国人等特別募集(在県枠)※のある高校は自宅から通うには不便で、交通費がかかってしまいます。かといって、普通の高校では日本語や学習に対する支援が受けられるかわかりません。
どこがふさわしい高校なのか混乱したジェニファーさんに、「とにかくすべての学校に足を運んでみましょう」と提案しました。学校説明会はもちろん、文化祭、平日に開催される授業見学にも行きました。高校の先生に不安を聞いてもらい、高校で受けられる支援の具体的な内容を教えてもらいました。私立高校で、国際クラスがあり日本語習得のカリキュラムがあるところ、選択科目で日本語講座がある高校、そうした情報も得られました。
ジェニファーさんは、文化祭や授業の見学を通して、高校生活のイメージができてきたようです。そして、「高校卒業後の進路も考えて選ばなければならない」と考えるようになりました。高校を卒業したらすぐに働くのか、専門学校や大学などに進学してより専門的な技術や知識を身に着けるのか、保護者とも通訳を交えて話し合い、どちらの可能性にも対応できる高校を選ぶことになりました。
納得して志願校を決めたジェニファーさんは、猛勉強を始めました。英語や数学に力を入れ、面接の練習を通して日本語の表現にも豊かさが増すようになりました。私自身も一緒に多くの高校に足を運んだことで、多くの知識や経験を得ることができ、今後の進路指導に自信をもてるようになりました。
※P.17 ①「在県外国人等特別募集」を参照。
ICTも活用した手厚いサポート
ー ある定時制高校の先生より
私の勤務する夜間定時制高校では、クラスの人数が少ないこともあり、手厚くきめ細やかな対応が受けられます。すべての生徒のために学びなおし授業を設定したり、相談体制が充実していたり、さまざまな進路に対応したりしています。
多文化共生の取り組みとして、日本語指導が必要な生徒のニーズに応じて柔軟に日本語の授業が設定されており、授業の個別対応も行っています。レベル別の日本語授業を設置し、さらに日本語能力試験対策も行っています。また、その他の授業は、1年次は英語、数学、体育以外の教科はすべて個別支援、2年次以降も必履修科目は個別支援となっています。
外国につながる生徒たちのみならず、日本人生徒たちもスマホ等の端末の翻訳機能などを駆使して学習に取り組み、教員はQuizlet1やKahoot!2などのアプリを使ってクイズ形式で授業をしたり、Canva3の翻訳機能を利用して教材を作ったりと工夫しています。
神奈川県高等学校定時制通信制生徒生活体験発表大会という発表会があり、毎年外国につながる生徒たちの発表があり、日本での奮闘や高校生活を通じての成長を語ってくれます。どの発表もドラマチックで感動を与えてくれます。定時制の世界も楽しいですよ。
1:単語カード、模擬テスト、ゲームなどを作成できる学習アプリ。 2:学校などの教育機関で用いられる教育用ゲームのプラットフォ ーム。 3:SNSの投稿、ビデオ、カード、フライヤー、パワーポイントなどを作成できるアプリ。
特別な支援体制のある私立高校
外国につながる生徒の入学に積極的な私立高校があるのをご存じですか?私立高校は高い、というイメージが先行しがちですが、就学支援金※の導入で、学費負担は軽減されています。来日間もない生徒で在県枠での受検も難しいようであれば、日本語学習などの特別な支援をおこなっている私立高校を選択肢として考えるのもよいかもしれません。外国につながる生徒が多く在学する私立高校では、先輩たちが進級し進学していく姿を見て、後輩が刺激を受けて進路実績を重ねているケースもあります。高校3年間で身につけた日本語の力や在学中に留学して培った経験をいかして、日本の大学や海外の大学へ進学している生徒もいます。
かながわ国際交流財団が実施した進路調査でも、私立高校への進学は増加傾向にあります。費用面を心配して私立高校との併願をためらう外国人保護者もいますが、私立高校のメリットや支援制度などをしっかりと説明し、生徒に合った多様な選択肢を検討してみるのはどうでしょうか。
※高等学校等就学支援金(私立高等学校等)
進路指導を通じて、自信をもたせてくれた先生
ブラジル出身の元生徒より
私はブラジルで小学校1年を終えてから、家族4人で来日しました。来日間もない頃は習慣のちがいから、毎日が不安とドキドキの連続でした。初めての避難訓練では大パニック。訓練という言葉を知らなかった私は、本当に地震が来たのだと思い、あまりの怖さに半泣きになりました。また、音楽クラブの演奏会で、紺色のスカートを履いてくるように言われましたが、紺色という色を聞いたことがなかった私は「コーン色」だと思い込み、母に“黄色”のスカートを探さないといけないと伝えてしまいました。幸いにも黄色のスカートは見つからず、家にあったグレーのスカートを履いて演奏会に出たこともあります。
中学は少し荒れていた学校で、経済的な理由もあり、私は高校受験をするつもりが全くありませんでした。ところが、3年の時の担任の先生はとても熱心に指導してくださり、英語が得意だった私に国際科のある高校への進学を勧めてくれました。受験の存在すら知らず、勉強もあまりやってこなかった私が進学校に合格できるとは想像ができませんでしたが、先生は粘り強く進学を勧め、親と話をして奨学金の手配までしてくれました。
思春期には、自分が周りの人とちがう外国人であることが嫌になりだしたのですが、先生は面接の練習を通して、外国人で2つの文化・言葉を知っていることが私の強みだと気づかせてくれました。受験まで猛勉強をし、目指していた高校に受かることができました。私はそこで本当の意味で自分に自信をもつことができ、性格まで明るくなったと思います。
私たち外国につながる子どもは、日々学校で言葉の壁にぶつかり、習慣のちがいに戸惑いながら、自分自身と葛藤しながら生きています。日本社会はブラジルに比べ、あまり子どもをほめないと感じます。もっと子どもたちのいいところを見つけてほめてあげてください。そして外国にルーツをもっていることがいかにラッキーなことなのか気づかせてあげてほしいです。それが子どもたちの自尊心につながると思います。
私は励ましてくれた先生のおかげで大学まで進むことができました。あの時、先生に背中を押されていなければ今の私はいないと思っています。子どもたちの成長には待ったがありません。必要な時期に必要なサポートをすれば、子どもたちはそれに応える力を秘めていると思います。