「目の前の子どもたちを放っておけない」から「子どもたちの夢を一緒に叶える」へ
~外国人家族と学校とのあいだの潤滑油としての活動を~
●多文化共生スポット ワールドキッズ 代表 王 広子(おう・ひろこ)さん
(インタビュー実施日:2023年12月27日)
多文化共生スポット ワールドキッズHP
https://worldkids-y.org/
【団体概要】
「多文化共生スポット ワールドキッズ」は、これまで横浜市磯子区の根岸地域にて外国につながる子どもたちを対象とした学習支援教室を開いていましたが、かながわ民際協力基金54期(2022年度)の多文化共生ステップアップ・プログラムの助成を活用して、新たに同区内の洋光台地域でも学習支援教室を開設しました。
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代表の王 広子(おう・ひろこ)さん
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根岸の学習支援教室の様子
「ワールドキッズ」を立ち上げようと思った経緯を教えてください。
今年、活動を始めて8年目になります。活動当初の時期は、横浜市内の公立小学校に外国につながる子どもたちが通い始めた頃でした。当時小学生だった私の子どものことで小学校に行ったときに、たまたま中国人の子どもが編入してきており、先生から「王さん、中国語の通訳をして欲しい」という依頼がありました。それをきっかけに小学校に通うようになりました。私自身は日本人で中国に留学していたこともあり、夫が中国人なので夫婦では中国語と日本語を使っています。子どもはあまり中国語は話せませんが…。
その頃の学校は、外国につながる子どもたちの数が、年々、倍増するスピードで増えており、私自身は「目の前にいる子どもたちがこれから将来どうなってしまうのだろう?」と強く感じていました。学校側もこの事態にどう対応していけばよいのか、試行錯誤していました。こうした中、目の前の子どもたちを放っておけないという理由で「じゃあ、一緒に勉強しようか」ということになって、机とイスだけ用意すればなんとかなる、と子どもたちを家に呼んで勉強を教え始めるようになったのです。
横浜市南区や鶴見区に「外国人の学習支援活動」を行っている先輩方がいて、当時この方々に「これからは通訳だけでなく学習支援の団体をつくった方がよいですか?」と質問をしたところ「子どもたちには絶対、居場所が必要だから」と言われたこともあり、横浜市磯子区にこうした団体を立ち上げました。
今、小学生と中学生に関わっていますが、子どもたちは、授業が難しい、自分のやりたいことができない、こうした元気がない子どもたちがいる一方で、教室に入るなり自分のことをアピールしている子どもたちも多くいます。あえて元気な姿で振舞ったり、わがままを言ったり、たまに友達とも喧嘩をしたり、といった、そんな姿をみると、こうした行動が彼らの複雑な気持ちを表しているのかな、とも感じています。
今回(54期)の申請内容は、磯子区の根岸地域ですでに行っている学習支援活動を、同じ区内の洋光台地域でも新たに行うことですね。この申請のきっかけと具体的な活動内容について教えてください。
きっかけは、私が洋光台で「外国につながる子どもたちの学習支援活動の教室を開きたい」と思い、公的な支援機関や助成金について調べ始めて、その結果、かながわ国際協力基金の民際協力基金を知ることとなりました。なぜ根岸教室のほかに洋光台でも教室を開く必要があったのかと言えば、洋光台は高級住宅地もある一方で、団地も多くそこに住む外国につながる子どもたちが多くなってきているという背景があります。問題を抱えている子どもたちもいるので、この子たちの居場所が必要ではないかと考え、洋光台教室を開きました。
また地域のコーディネーターさんからも、外国につながる子どもたちに加えて不登校になっている日本の子どもたちもいるので、ぜひボランティアの方々の協力を早急にいただければ、という話も伺いましたし、日本語に限らず、学習全般についていけなくなっている子どもたちが増えていることを実感していました。
実際に「洋光台教室」の開設に向け活動してみて「こまったこと」や「うまくいかなかったこと」はなにかありましたか?
一番大変なことは、ボランティアさんを探すことでした。さまざまなところにチラシを貼ってもらい、また今もいろいろな方にお話しさせていただいているのですが、ボランティアさんがなかなか集まりません(ちなみにボランティアさんには交通費は支給しています)。洋光台は人口も多いし、日本語教室も何件かあるのでボランティアの方は、いらっしゃるだろうと思っていたのですが、実際には結構、難しいですね。今は、エリアも広げて募集をかけたり、いくつかの大学にも行ってボランティアの募集活動を続けています。
また今年(2023年)2月から「いそご多文化共生ラウンジ」ができまして、そこのホームページにも載せていただいたり、チラシもそのラウンジやコミュニティハウス、地域ケアプラザにも置かせていただいています。また区役所で年に1、2回開催される「日本語ボランティア養成講座」でも宣伝をさせていただいておりますが、その際には、必ずと言っていいほどボランティアの申し出をいただいています。
ボランティアを依頼するにあたっては、基本的には、「子どもたちを大切にしてくれる」気持ちが一番であり、あとはボランティア同士で決めたルールというか決まりごとを尊重してくださる方にお願いしています。また会則に加えて最低限、「守っていただきたいこと」としてまとめたものを最初にお渡ししています。
ちなみに最初に開いた根岸教室の方では、子どもはすべて中国の小学生と中学生で、ボランティアについては男性も女性もおり年齢も幅広く、お仕事も、サラリーマンの方、介護職の方、主婦の方などさまざまです。一方、洋光台では、8~9割が主婦の方で2人高校生の方が来てくれています。子どもの方も6か国から来ていて小学校1年生から中3まで偏らず、多様性があります。
ボランティア募集の他に、活動をしていく上で足かせになっていることはありますか? 申請書の中では、高校入試が一番の難関と書かれていましたが、例えば教材を購入する費用がかさんでいるといったようなことはありますか?
教材については、通常、学校で使われる教材とは別に、日本に来たばかりの子どもを対象とした教材が必要であると思います。そのあたりが手探り状態で、適当なものがなかなか見つかりません。特に日本に来ていきなり日本の高校を受験しなくてはいけない子どもたちのための教材を見つけるのは難しいですね。
外国につながる子どもたちは母国でそれ相応の知識を身につけていますが、それら知識が日本の高校受験というハードルを越えるためにダイレクトに活かせるわけではない、というもどかしさがあります。主には「英語」「国語」「数学」で受験するのですが、その問題の内容がわからない。例えば中国の子は漢字があるので、他の外国の子どもたちより多少は日本語の読解力に有利な面はありますが、他にもフィリピンやウズベキスタンなどの子がいるので、この子たち向けに受験対応の教材があるとすごくいいなと思っています。できればそうした教材が自分たちでつくることができればよいのでしょうが、実際には難しい状況です。
学習支援活動を通じて、子どもたちから気づかされたことがあれば教えてください。
それは毎回感じていることです。一年一年、子どもたちの成長を見ていく中で、常に「この子にはこうして接すればよかったかな」など反省して思い返したりすることもある反面、子どもたちとのかかわりで喜びを感じることもあります。外国につながる子どもたちを「可哀そうだな」と思って学習支援活動を始めて、本当につい最近まで、そのように思っていましたが、「可哀そうだから施しをする」という姿勢ではいけないな、と強く感じるようになりました。
これは、NPO法人の勉強会(かながわ国際交流財団の申請応援プログラム連続講座)に参加した際に「少しでも施しをしてやっている、というような傲慢な気持ちがあると、すぐ相手の方に伝わってしまう」ことがあるのを知り「あぁ、確かにそのとおりだ」と思ったことがきっかけです。特に子どもたちは純粋ですぐに伝わってしまうので「傲慢な気持ちは戒めないといけない」と思いました。そして、子どもたちと一緒になって子どもたちの夢を叶えるお手伝いをすることが、私たちの夢を叶えることにもなると思うようになりました。そうした想いで、民際協力基金を活用させていただきながら学習支援活動を行っています。
ちなみに、毎年「卒業を祝う会」を開いていますが、その時にみんな元気に集まってくれるので、多くの子は私たちの支援活動に好意を持ってくれているのだろうなと思います。親御さんからは「自分の子どもたちが日本で楽しく生活を送れるのも『ワールドキッズ』の王さんたちの支援活動のおかげ」と感謝の言葉をいただくことがあります。
学齢を超過している子どもたちも学習支援の対象としているそうですが、実際にはどのような状況でしょうか。
母国で中学を卒業して日本に来た子どもたちや、あるいは母国で高校を中退して日本に来た子どもたち(一部18歳を超えた人たちも)を対象に日本の高校に入れるように学習支援をしています。日本では、高校を卒業し就職しないと定住権が得られないことが多いため日本の高校入学は彼らにとって必須です。
コロナ禍の影響を受けて、これまで入国できなかった外国の方々が昨年来多く日本に来ており、そうした状況にある外国の方も相当数いると思います。この方々への学習支援活動は、一般的にはフリースクール等で行われていますが月謝を払う場合があるので、お金がない人は私たちの団体のようなところに繋がるといいなと思います。そういった子どもは昨年(2022年)に比べて、増加傾向にあると思います。
「ワールドキッズ」立上げ当初に王さんが抱いていた活動のコンセプトはどのようなもので、それは今もそのままなのか、あるいは変わってきているのでしょうか?
活動の原点となる考え方は今も当時も変わりません。子どもだけではなくて親御さんも本当に困っている方が多くいて、その困っていることを学校に相談できない状況も見受けます。そこで以前、横浜で外国につながる子どもたちの学習支援に長く携わっていらっしゃる先生に「こうした状況を何とかしたいのですが、どうすればよいでしょう?」とお聞きしたことがあります。具体的には、まず親御さんたちと相談し了承を得たなら、学校に対して「親御さんはこういうことで困っていて、言葉の問題でコミュニケーションのやりとりに地域のボランティアに入ってもらってコミュニケーションを行いたい」と伝えて話をされてください、とのことでした。学校とその地域の支援者が子どもたちのために動くということは理想的なことだと仰ってくださいました。
このような、地域から発する支援活動と、学校側との間で行う課題解決に向けたコミュニケーションを、どんどん循環させて、支援活動が広がっていったらいいな、と何年も前から考えています。この前も、私たちの支援活動の中で子どものいじめに関する問題があることが分かったので、親御さんに連絡をしてみたら親御さん自身もとても困っていました。そこで学校に連絡を取らせていただき、私たちがコミュニケーションを円滑にする代弁者となり取り組んだ結果、今はよい状況に変わって来ています。こうした地域単位での外国人家族と学校との潤滑油になるような活動を今後広げていければいいなと思います。
活動範囲が拡大してくると王さんの他にも、中心となって活動を推進できる人が必要になってくると思います。現在ボランティアの方は何名ほどいらっしゃいますか?
誰か他にも担っていただける方がいれば、と思いつつ、いつもスタッフのみなさんが活動しやすいような環境をつくるために目を配っています。磯子区での日本語ボランティア養成講座を受講されていて興味を持たれている方もいらっしゃるので、そういった方々がボランティアとして活躍しやすいような場が作れればと思っています。始めたばかりの洋光台教室でも複数名の方々が中心となってボランティアとして活動されています。
これからは横浜市磯子区という地域を中心にボランティア募集活動を行っていきたいと思っています。その具体的な方法として、これまでと同様に区役所、ラウンジ等の協力もいただきながら、地域で思いのある人をどんどん見つけていくことがとても大事なのかなと思っています。
王さんが考える「ワールドキッズ」の未来の姿はどのようなものですか? また未来に向かってこの活動を更に広げていくとき新たに挑戦すべき課題は具体的にどのようなものなのか、イメージがあれば教えてください。
横浜市磯子区にはいろいろな外国から来て日本に住み始めている方もいて、外国につながる子どもたちも数多くいます。以前、ウクライナから来た方がいるとお聞きしてお母さんと連絡をとった時には「日本にきて自分の国の行事ができない。それが寂しい」と聞いたことがあります。そういう母国の行事的なことができたらいいと思うのが一つと、あと学校にいけないような子たちがうちの教室に来てくれたらうれしいなと思います。また活動スケジュールの中に、「遠足」や「クリスマス会」のようなさまざまな行事を入れて、子どもたちを巻き込んで一緒に楽しむことで、子どもたちの心の支えになれたらいいなと思います。
それから、もちろん実際に子どもたちの成績も上げていかれればと思っています。それが子どもたちの将来につながることですので、そのためにはどうしたらよいかをしっかり考えていかなければいけない。それぞれの子どもたちが自分に対して自信を持ち「私はここに居ていいんだ」とか「自分は必要とされているんだ」と思えるような気持ちを育んでいきたいですね。結果的に子どもたちの自己肯定感を上げていかれればと思います。日本に来てよかったと思えた瞬間から一人ひとりの時間は再スタートすると思うからです。
民際協力基金を活用した団体として、これから申請を検討したいと考えている方々に対してのメッセージをお願いします。
財団の職員の方々には親身になってご対応いただきました。私たちは初めてこうした助成金に申請したのですが、素朴な疑問や質問に対して真摯な対応をしていただき本当に感謝しております。あと会計に関して領収書の処理の仕方などの細かいことについて、もっときちんと確認すべきだったと思いました。助成金支出に関する項目の整理の仕方など大変勉強になりました。
また団体の運営に関わる実践的なことを教えていただきました。本当に知らないことだらけでしたし、職員の方々のアドバイスを受けながら大船に乗った気持ちで運営ができています。何より、私たちの小さな外国人支援活動に対しても、育て行こうとされている姿勢が大変ありがたいです。
年末のお忙しい中のインタビューにも関わらずご協力を頂き有難うございました。
インタビューの中でも繰り返し王さんが訴えられていた「外国につながる子どもたち」への「学習支援ボランティア」。この取材記事をご覧になり興味を持たれた方、ぜひ「多文化共生スポットワールドキッズ」へのお問い合わせをお待ちしています。
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