かながわ民際協力基金 助成団体インタビュー
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かながわ民際協力基金インタビューVOL.8

かながわ国際交流財団の「かながわ民際協力基金」による助成金を活かし、県内の在住外国人や世界中の人々へのさまざまな支援活動をするみなさんの思いを伺います。
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一緒に暮らす仲間として、ともに学び、ともに楽しむ
●ユッカの会
水本みゆきさん(副代表) 木野美穂さん(日本語コーディネーター)
(インタビュー実施日:2023年2月20日)
ユッカの会HP http://yukkanokai2014.web.fc2.com/index.html


【団体概要】
ユッカの会では、かながわ民際協力基金53期(2021年度)の多文化共生ステップアップ・プログラムの助成を活用して、子どもたちが集い、ボランティアとともに学習し、団欒の中で夕飯を食べて帰る「ひろば」活動を実施しました。食事は横浜市栄区の地球市民かながわプラザ(あーすぷらざ)内にあるカフェを活用して、地域の人たちや子どもの保護者に協力してもらいながら提供していました。



  • 水本みゆきさん

  • 木野美穂さん



「ユッカの会」の名前の由来について教えてください。

水本:
会は1988年に設立されました。「ユッカ」はメキシコが原産地の観葉植物で、「厳しい環境のかなでも力強く根や葉を伸ばしていく」特徴をもっているとのことです。日本に来た方々が「日本の地に強く逞しく根を下ろして、自分らしく生きていってもらえるように」という願いを込めて「ユッカの会」と名付けられました。


活動が始まったきっかけはどのようなものだったのでしょう?

木野:
1972年の日中国交回復で残留孤児の方々が、ご家族と一緒に日本に戻ってこられました。最初は所沢や関西の姫路の「自立支援センター」という日本の生活に慣れるための国の施設に4か月(後に6か月に期間延長)入り、日本の文化や日本語を学んで、それぞれが各地で生活するというかたちをとっていたようです。
 神奈川県にもこうした学習を終えた方たちが数多くいらっしゃいました。その中で子どもたちが学校の学習に困っていることに気づき、このままではいけないということで勉強を助けることから始めたのがきっかけだと聞いています。そして、4か月の日本語教育では日本で生活していくにはあまりにも少ないということで保護者の方への日本語支援も始まりました。
 私たちは、決まった事務所を持っていません。現在は、県下で4か所のボランタリーな活動に解放された施設を拠点としていますが、当時はこうした活動自体があまりなかったので、最初は学習者のみなさんが住んでいる団地や集合住宅の集会場に出向いて行って勉強をしていたようです。そうした地域密着の勉強会から始まり、かながわ県民活動サポートセンターができてからは、そこを利用して学習活動を行い、その後、就職に有利になるようにということで神奈川県社会福祉協議会に協力していただき「パソコン教室」も始めました。このように、その時々に気づいた人が、日本で生活していく上で、必要だと思うことに対応してきた結果、活動の幅も広がってきたという経緯があります。

学習支援の様子:1999年に当時56歳で、中国から日本に帰国した、残留孤児だった金田さん(左)と日本語を勉強する木野さん。
80歳になる今も毎週ここで日本を学んでおり、笑顔で「とても楽しい。生きる励みになる」とのこと。



活動を始めた当初から、ボランティアの中に教員経験者の方が多くいたという訳ではなかったのでしょうか?

水本:
当初も教員経験のある方はいらっしゃいましたが、中国から帰国された方々と世代が近く 帰国者の経験を我がことのように感じて関わられた方々もおられました。
 日本語の勉強を教えるということで活動がスタートしているのではなく、地域で一緒に暮らす仲間として互いに助け合う、ということが、会の基本的な考え方というか根本精神として流れているのだと思います。それが当初から会の運営方針だったのだと思います。

木野:
会の設立以来、基本姿勢としてそれはずっと変わりませんし、ボランティアの問合せを数多くいただき、多くの方々が活動に参加してくださいますが、一番にお願いしているのは「ともに学び、ともに楽しむ」ということですね。地域に暮らす“お隣さん”として、学ぼうとされている方になにが大切かを考えて工夫して関わってくださるようお願いしています。


ユッカの会は「一堂に会する場のない、ゆるやかなつながり」とのことですが、そのなかで活動が30年以上続いているのはなぜだと思われますか。

木野:
1998年特定非営利活動促進法が施行され、かながわ県民活動サポートセンター(1996年設立)に活動拠点があるボランティア団体の多くが法人格を取得しました。ユッカの会も法人格を取るよう勧められましたが事務局では法人化することで活動の自由度が低くなることを懸念しました。地域の中で、より個人が自由に活動しながら「人と人とのつながり」を大事にしたい、このまま任意団体でということになりました。ユッカの会としては、ボランティア一人ひとりが自立していることが、とても大事なことだと思っています。
 また、私たちは「目の前の課題」をボランティアの「一人ひとりの想い」で解決していくという姿勢を大切にしています。「一人ひとりの想い」はとても自主的、主体的なものであり、ある意味とても強いものです。一方で「想い」を重視した活動は難しい面もあり、周りからは「いつ潰れるか」と心配もされていますが、すでに35年続いており、交通費なども自腹で活動してくださる方々が多数いらっしゃるのは、素晴らしいことだと思います。


ボランティアさんのその「想い」の源になっているものは何だとお考えですか?

水本:
ともに学び、学習をしている人の「成長」を見るのが楽しいということかと思います。ボランティアをする人からも、される人からも「この会があったから今の私があります」という言葉は、本当に無数にいただきます。


「生活支援」「学習支援」を通じて、次第に現在のような活動の拡大に結び付いていると思いますが、「食事の支援」を始められたのはいつ頃からだったのですか?

水本:
「食を大切にする」というのは当初からあったことだと思います。食料提供、食事支援という側面だけではなくて「お互いの国の食の文化を知りあう」ことや、卒業を祝う「お祝いの会」など、みんなで手作りの食事を持ち寄ってお祝いをする、ということはずっとやってきています。具体的に事業として食事の提供を始めたのは助成をいただいた2021年前後からです。
 ただ、それまでにも「このお子さん、ちょっと心配だな」と思われるような場合には、個別におにぎりを作ってきて渡す、ということはしていました。実際にパンや飲み物などをボランティアさんが持参してくださって、それを食べてから勉強を始める、という子どもたちが何人もいましたので、それぞれのボランティアさんがこうしたフォローもしてきています。先ほどお話したように、会としての方針も会員一人ひとりが近所の“お隣さん”という感覚で子どもたちに関わってくださっています。


今まで活動を進めていく中で「壁」になっていたことは何かありますか? またその「壁」を乗り越えるためにどんなことを試されましたか?

木野:
現時点で学んでいらっしゃる方は子ども・成人合わせて250名ほど、ボランティアさんは200名ほどが登録してくださっています。毎年入れ替わりつつもここ数年、200名以上で推移しています。学習者の方が参加されるきっかけとしては口コミだったり、ネット検索して、という方もいらっしゃいますし、また財団の多言語支援センターなどのような相談窓口や区役所、お子さんだと学校の先生からの紹介で、という方もたくさんいらっしゃいます。ボランティア希望の方は、ホームページを見てくださったり、相談窓口を通じてという方が多いです。
 そうした中で壁といいますか、活動を進める上での課題として感じていることはあります。私たちの活動の良い部分でもあるし、一方で足りない部分でもあるのですが、活動拠点が4つあり、活動の時間もそれぞれのため、学習される方に個別にきめ細かい対応ができる一方、一つの場所で決められた日時に集まって活動しているグループに比べると「別の場所で活動しているボランティアのことを知らない、またお互いがどんな学習活動をしているか知らない」という課題はあります。
 それぞれの地域や時間帯に異なる目標で活動されている方々の間で、学習方法や進め方の違いが出るのは仕方ない面もあるとは思います。じっくり時間をかけて教えてくださるボランティアの方もいれば、学習者さんと二人でどんどん進んでいくケースもあります。また今の状況のままでいいのだろうかという不安をお持ちになる方もいると思いますが、そのような課題意識に十分に応えられてはいません。少しでも不安解消の助けになればと思い、「おしゃべりカフェ」という活動を始めました運営委員が月に1回、曜日を変えて朝から晩まで、県民センターのボランティアサロンにいて「なにかあればお話しに来てくださいね」という場です。
 コロナ禍の今は対面ではなくオンラインで開催しています。ボランティア同士で、毎回、何かテーマについておしゃべりしましょう、学習者の方も日本語で自由におしゃべりしましょうという場です。心配事や相談があれば、ブレイクアウトルームに入って相談することもできます。「課題を解決した」ということではないですが、少しずつ手探りで前進している、という感じです。
 コロナの時には対面での活動を休止せざるを得なかったので、オンラインで、ボランティアと学習者がつながりを維持したり、学習を継続したりできるように、Zoomなどのオンラインツールの操作の方法についてサポートする体制をとりました。


現在、「ともしびカフェぽけっと」(※2022年3月まで「カフェポエム10」という名称で営業)も活用して活動されていますが、そのメリットとしてはどのようなことがあげられますか?

水本:
「カフェぽけっと」はあーすぷらざ(※1)の中にありますが、あーすぷらざの教育相談の窓口で「日本語を勉強したい」とか「学校の勉強をサポートしてほしい」という相談が来たときは、直接、相談員がカフェにその方を連れてきてくださることもあります。今は営業日が限られていますが、私たちには事務所があるわけではないので、「そこにいけば必ず誰かがいる」という、みんなが集える「場」があるのは本当にメリットだと思っています。

※1あーすぷらざ(神奈川県立地球市民かながわプラザ)は、私たちが地球に暮らす一員として、世界の文化や暮らしについての国際理解や国際平和、地球規模の課題について、日々の生活の中で考え、自分にできる身近なことから行動していくための総合的な施設。神奈川県が1998(平成10)年2月に横浜市栄区(JR根岸線「本郷台」駅前)に設置。

カフェ店内のひとコマ



「ユッカの会」での絆づくりに非常に有効な場所になっている、ということですね。

木野:
一昔前に比べれば街で見かける外国の方も格段に増えてきました。ただ街ですれ違ってもその人たちが実際、日本でどのような生活を送っているかということに想いを巡らせる日本の方はそれほどいないのではないかと思います。それが、例えば地域の教室で日本語学習や、学校の勉強学のお手伝いをするなど、外国の方と日本人の方が接する機会が増えていくことで、相互理解が進みお互いの「垣根」が少しずつでも低くなってゆくことを期待します。
 ユッカの会の活動の柱は、子どもと大人の学習活動ですが、その他にも「ともに学び、ともに楽しむ」ことを大切に、年間を通じて会員のご家族や地域の方々にも開かれたさまざまな交流活動を行っています。「ともしびカフェぽけっと」で食をテーマにした交流活動を開催できるようになったこと、夕食をともにする居場所活動「ひろば」に、お料理や食に関心のある方々が関わってくださるようになったことで、新たな交流がうまれ活動の幅が広がりました。
 現在は、調理の場がなくなったことで一時期中断していた「世界の家庭料理」(写真参照)を再開し、「帰国者とともに」という活動も行っています。前者は、学習者が講師となり、ふるさとのお料理をいっしょに作って食べます。そしてふるさとの方々の暮らしぶりや大切にしていること・ものについて話してもらいます。後者は、帰国者の方々に餃子やお饅頭の作り方を教えてくもらい、みんなで作って食べ、お話を聞くものです。



長い間、活動されている中で、学習者の方から感謝された思い出で、特に印象に残っていることはありますか?

水本:
交流活動のひとつとして子どもたちの「キャンプ」を設立当初から実施しています。かつてキャンプに参加して、今は成長して30代となりお仕事もされている方々が、今度は企画、運営をする側になってキャンプに携わってくれています。その方たちが会に対して感謝の気持ちを持ってくださっているからこそだと思います。
 また当会は、決まった方と長くペアを組んで学習が続くというスタイルなので、人それぞれではありますが、個々のつながりが強くなる場合も多いです。なので、ボランティア一人ひとりが感謝の言葉を直接いただく、という経験は数多くされているかと思います。お互いの家に遊びに行ったり、また学習者が帰国された後、そこに遊びにいったり、手紙のやり取りをしていたりという方もいらっしゃいます。当時、子どもだった方が結婚して出産した、といったような時に会いに来てくれたり、ということもあります。
 それからコロナ禍になって最近はできていませんが、以前は小中学生、高校生が卒業して次の進路に進むタイミングで「卒業を祝う会」をしていました。その時に、当初は日本語も学校の勉強もできなかった生徒さん、その後、ボランティアさんの力を借りて専門学校に進学し就職が決まったと報告に来てくれ、当時担当していたボランティアさんに花束を渡してお礼を伝えていました。
 また他にも小学生の時に勉強していて、その後はしばらく会と関わっていなかった方が、たまたま何年か後の交流行事の時に偶然、ボランティアさんとの再会をはたして、大きく立派になったかつての生徒さんと「もう十年以上前に一緒に勉強してたよね」と旧交を温めることもありました。さまざまな場面でそういったことがありますね。


今回の助成事業の期間は2021年10月から翌年9月まででしたが、コロナ感染拡大の第5波、6波の時期と重なると思います。どのような影響がありましたか?

木野:
助成事業である「学習支援、居場所、食事提供を兼ねた『ひろば』の運営」は、ほぼ継続できましたが感染者が急増した時期は、「食事提供」についてはお弁当にして持って帰ってもらう、ということで何回か対応しました。また「ひろば」に人数が集まりすぎないように、という配慮をしました。

水本:
「学習支援」についてはコロナ感染がピークになった時には活動の拠点がすべて閉鎖になってしまいました。対面で会うことはできなかったので、電話やLINE、お手紙などで「どうしていますか?」といった連絡をとったり、会からボランティアさんに「こんな情報ありますよ」と提供した最新情報を、さらにボランティアさんがそれぞれ担当している学習者の方に流していただいたりして、一定程度の活動が継続できていたのは、本当によかったと思います。そうした中で、先ほども触れたように、さらに「みんなでオンラインのやり方について学んでみよう」となって、ZoomやLINE、Skypeなども使って多様な学習ができるようになりました。

「ともしびカフェぽけっと」はJR根岸線「本郷台」駅より徒歩3分の地球市民かながわプラザ(あーすぷらざ)2階にあります。



「民際協力基金」申請のきっかけについてお話しください。

木野:
助成の対象は新しく取り組む活動となっていることがきっかけの一つです。私たちの通常の活動では、学習者の方はいつも新しい方がいらっしゃいますが、活動のパターンとしては、「学習支援」と「生活支援」の2つであり、新しいものではありません。その中で「ひろば」の活動は、新たに始めた試みなので申請が可能でした。事業の内容としては、毎週水曜日の夜に、居場所的な意味合いも持たせて学習支援を行い、そして食事も提供するというものです。
 事業を継続できるかどうかわからない中ではありましたが、実際に試験的にやってみた中で、その必要性もわかりましたし、協力していただける方もいらっしゃることがわかりました。また私たちが提供する「場」が、地域にお住まいの一人暮らしの方の居場所にもなり、よい出会いの場となることなどは、最初は想像しておらず、新しい発見でした。助成をいただけたことによって、先ずはやってみる、ということができたのは大変感謝しています。


民際協力基金の助成制度そのものについて「もっとこうだったらいいのに」という希望があれば教えてください。

木野:
数年前に「多文化共生ステップアップ・プログラム」という20万円の小口助成枠ができたので、市民団体にとって申請がしやすくなりました。まず、それが有難いと思います。申請書類に関しては、「助成終了後の展望」などの項目があり頭を悩ませますが、事業を始める際には必要なことだと思います。
 また事前のヒアリングを通じて申請書類について「もう少しこういうふうに書いた方が伝わりやすい」などのアドバイスをいただき「なるほど」と納得し書き加えたこともあり、活動を応援してくださっていると感じ励みになりました。ありがとうございました。


53期事業を終えてみて、改めて感じたことなどについて教えてください。

水本:
先ほども触れていますが、やはり「ひろば」の活動を継続させることができたのは本当に良かったと思います。子どもも大人も、水曜日はみんなで集って「勉強してご飯を食べる」ということがこの1年間で定着した、という感覚があります。ここまで継続できたのは資金面の支援があったからです。先が見えない中で始めたことだったので私たちがここまでやってこられたのは良かったです。

木野:
そうですね、当たり前のことかもしれませんが新しい活動には小さいながらも新しい展開があると実感しました。ひろばでは ふだんの学習活動に「食」「居場所」が加わることで、これまでとは少し異なる関心の方々が参加したり、関わってくださるようになりました。学習者やご家族とは、食事の準備をしながら、あるいは食事をしながらのおしゃべりで、学習のときとはちがう側面を知ることできます。また、ふだん外国につながる方と接点が少ない方にとっても、地域で暮らす外国の方を身近に感じる場になってきたと思います。小さい積み重ねが、会全体の活動の幅を広げたり、深めたりしてゆく可能性を感じました。


今後、力を入れていきたい分野や内容がありましたら教えてください。

木野:
外国につながる方々が高齢化してきたことで、子どもたち、青少年、成人、中高年、高齢者とすべてのライフステージの方々がいるので、どのライフステージでも安心、安全に過ごせる社会をつくっていくお手伝いをできればと思います。
 子育て分野のことは、かながわ国際交流財団をはじめとして、さまざまな団体が支援活動を行っていますが、高齢者あるいは社会とのつながりが持ちにくくなった方に対するサポートについては、これからの段階です。言葉の壁があると今の日本の高齢者向け施設では受け入れてもらうのが難しい、ということもありますので、安心して介護を受けられるような生活をどのように実現させていけるのか、取り組んでいきたいと思っています。


最後に、民際協力基金への申請を検討されている方に先輩としてなにかメッセージがあれば一言どうぞ。

木野:
助成金に申請を検討するということは、「これからやるべきことは何か」「どうすればそれを実現させることができるか」を考える、いい機会になるかと思います。また不安な面もあるもしれませんが「やってみたいこと」があれば申請してみてはいかがでしょうか。申請することで初めて、そうしたチャンスも生まれてきますので。


長時間にわたるインタビューをさせていただき、ありがとうございました。
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