保育園・幼稚園での
2024年1月
公益財団法人かながわ国際交流財団
保育園や幼稚園の従来の調査票には項目がないことが多いと思いますが、入園する園児および保護者に次の項目を確認しておくと、その後の対応がしやすくなります。
事前にこれらのことを確認しておく理由は、これからどのような対応が必要とされるのか心構えを持てるようになるからです。特に言語面では、外国出身だからといって英語で対応ができれば大丈夫なわけではないため、今後のコミュニケーションにおける対応策や工夫を考えるうえでも、情報を把握しておくことが大切です。
ここで紹介する資料はKIFが運営する「外国人住民のための子育てサイト」にてダウンロードできます。
外国につながる子どもを受け入れる前に背景を確認するための、「児童調査票」を多言語(日本語併記)で用意しています。入園前の背景理解のための参考資料としてご活用ください。
園からの事前の情報提供の大切さ
子どもを日本の保育園・幼稚園に初めて入園させる保護者にとって、いろいろなルールがわからないことがあります。また、園そのものについてわかっていない場合もあります。
入園説明会の際には、多言語資料などもできるだけ活用しながら、きちんと園について知ってもらうことが必要です。
幼稚園などにおいては、制服の夏服・冬服などがあり衣替えの時期などもあると思います。衣替えという文化がない国もあります。例えば、入園式には夏服もしくは冬服で出席すべきか、自由に選択できるかなど、きちんと伝えておくことが大切です。
「外国につながる親子のための入園のしおり」より
外国につながる園児を受け入れるとき、 どのような言葉で接したらよいのか迷っている 保育者は多いようです。
幼児の発達段階を考えると、園児の母語も完璧ではありません。保護者の言葉がわかるようになるには、家庭において保護者は保護者の得意な言葉(たいていの場合は母語)で子どもに話しかける必要があります。そのことによって、子どもと親の親密性が増し、子どもは物事を深く理解できるようになります。保護者にはぜひ「家庭で母語でたくさん話してください」と伝えてください。その発達は、その後就学後の学習能力の向上の手助けになります。そのため、保育者が日本語を得意としない親に家で日本語を話すようにお願いすることは避けましょう。
また、母語で伝えれば理解できるのではないかと、園児に対して翻訳アプリ(機械翻訳)を使う園もあるようですが、場面によっては機械を使った対応を避けたほうが良いと思います。翻訳アプリは、通常、大人が使う言葉で変換されるため、(たとえ、子どもがその単語を理解できても)必ずしも幼児に適した言葉遣いではない場合があります。
もうひとつ付け加えると、まだ両言語が未熟な園児に通訳を依頼しないほうがいいです。日本語を習得している途中の子どもに負担をかけることになってしまいます。
保護者へのコミュニケーションにおいては、通訳や翻訳アプリ(機械翻訳)などを活用ことは構いません。伝えることにおいては様々な工夫をしていくことが大切です。保護者とのコミュニケーションについては次の頁でお話ししていきます。
日本語での会話が難しい保護者とのコミュニケーションに大変さを感じている保育者は多いようです。
上の漫画に登場する母親は、園にお迎えに行ったのにもかかわらず、日本語ができないということで、自分の子どもとお友達とのアクシデントついて先生から伝えてもらえませんでした。おでこがぶつかった相手側の子どもの保護者にはきちんと説明されているのに、何も伝えられず、その場にいない自分より日本語ができる夫に電話で伝えられたため、「透明人間になったみたい」と、とても悲しい気持ちになりました。言語では伝わらないかもしれませんが、人と人との間には非言語コミュニケーションで伝わること、伝えられることがあります。保育者側で「日本語がわかるお父さんに電話すればいいか?」という結論を出す前に、「お母さんにどのように伝えたらよいのか」を考えて、まずは簡単な日本語でコミュニケーションをとってみてください。
日本語で伝えた場合、保護者は細かい部分はわからないかもしれません。でも、この子とこの子がおでこがぶつかったという部分はジェスチャーを交えて伝えることができると思います。詳しく伝わらなかった場合、詳細については、あとから日本語のわかる父親に伝えればよいと思います。また、保護者とのコミュニケーションにおいては、翻訳機で伝えたいことを訳してから見せたり、電話による通訳サービスなども活用できるかと思います。
保護者との日々のコミュニケーションは挨拶から始めることが大切です。
「おはようございます」と日本語で話すことはもちろんのこと、その方の言語でも挨拶ができたらとても喜ばれると思います。大人になってから来日した場合、日本語を習得するのはとても難しいことがあります。日本に長く住んでいても、日本語があまり理解ができない方もいます。
子どもが「病気・けが」などと園から連絡があったら必ず迎えに来るように約束をしておく。園のルールだということを説明会などで伝えておく。
やさしい日本語を試す(言い換える)
例)〇〇くんは病気です。食べたものを口からたくさん出しました。〇〇園にすぐ来てく
ださい。
翻訳機で訳して音を聞かせる
例:Đứa trẻ ném lên.
市町村の外国人相談窓口や「多言語支援センターかながわ」に連絡。活用するには事前に活用の仕方を調べておくことが必要。
※「多言語支援センターかながわ」は電話通訳可 →「いざというときのコミュニケーション」を参照
※このマンガ内でアプリの画面は日本語の上に日本語が出ていますが、実際の翻訳アプリでは保護者のわかる言語で翻訳文が出ます。
日本語を読むのが難しい外国人保護者にとって、園からのお手紙を読み解くのはとても大変です。
園側にとっても毎回のお手紙を翻訳するのはとても手間がかかり、保護者の言語に合わせて何言語にも翻訳する手間をかけるのは、通常の業務に加えて新たな負荷がかかるので大変なことになってしまします。
近年はテクノロジーの発達によって、テキストデータがあれば、簡単にスマホやPCなどで翻訳をすることができるので、とても便利になりました。紙面を画面にかざすだけで翻訳できるアプリなどもあるため、日本語が苦手な外国人保護者であっても概要がつかめるようになったと聞きます。
しかし、こちらの漫画のように、元の日本語が季節の挨拶からはじまり、文章の構成がわかりにくかったりすると、主旨を理解できないことがあります。また、翻訳アプリの特性から手書き文字は認識されないこともあります。
翻訳ツールを使う保護者にも、少し日本語がわかる保護者にも、とても役に立つのが“やさしい日本語”です。やさしい日本語の作り方は、出入国管理庁と文化庁が作成した「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」などにも書いてあります。日本語が母語ではない外国人などにもわかりやすい日本語です。
※漫画では、アプリを使用するとき読み仮名が被って見えてしまうことをお伝えしましたが、平仮名を読める保護者においては、読み仮名がついたお手紙が情報の理解を助けてくれます。
在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン(出入国在留管理庁・文化庁)
https://www.moj.go.jp/isa/support/portal/plainjapanese_guideline.html
保護者とのコミュニケーション(会話・文面)における工夫について前にご紹介してきましたが、それらの工夫や“やさしい日本語”には限界があります。正確に伝えなければならないことや、保護者から細かく聞き取りが必要なことは、「多言語支援センターかながわ」などの外国語に対応できる窓口の活用をしてみるのも大切です。
保育園・幼稚園によっては、日本語ができる保護者の友人・ 知人に通訳を頼む場合があるようですが、知人・友人などの通訳には翻訳の正確性や負担の大きさなどさまざまな面で課題があります。保育者が伝えたことをすべて訳されていない場合や、通訳者の意見を付け加えて通訳され大きなトラブルになるということもあります。大切な場面のコミュニケーションには、できるだけ通訳サービスなどを使うと良いと思います。
いざというときの場面の例
●お友達とのトラブルが発生したとき
●病気や大きな怪我など医療機関につなげることが必要な時
●納入金の不足など、金銭に関わるとき
前頁でも紹介した通り、翻訳通訳アプリも活用の仕方によってはとても役に立つツールです。
先に紹介したカメラをかざす翻訳アプリのほか、国立研究開発法人情報通信研究機構の作成しているVoiceTraというアプリもあります。会話のなかでこの単語や文章はその方の言葉で伝えたいというときに利用すると便利です。
国立研究開発法人情報通信研究機構
先進的音声翻訳研究開発推進センター
子どもが病気や怪我をしたとき、または地震や自然災害などのときは、どのようにすれば外国人保護者に情報を伝えられるか考え、事前に多言語資料などを準備しておくと安心です。
(制作:文部科学省)
「かすたねっと」は、帰国・外国人児童生徒教育のために文部科学省が提供する情報検索サイトです。外国につながる児童・生徒の学習や活動を支援するための情報検索を行うことができるのですが、「文書検索」をクリックすると出てくる資料の中には、大切なことを多言語化しているものがあります。例えば、「届出・証明書」の分類にある「登校許可証明書」のような多言語資料は、保育園・幼稚園でも活用できますので参考として紹介します。
(制作:NPO国際交流ハーティ港南台&公益財団法人かながわ国際交流財団)
多言語医療問診票は、日本語が難しい外国人が、病気やけがをしたときに、その症状を母語(またはわかる言語)で医師などに伝えらえるように制作されたものです。11診療科目、23言語で用意していますので、子どもが病気やけがなどで病院にかかるときに活用できます。
●災害時の多言語支援情報サイト
(かながわ国際交流財団)
災害時にはこちらのサイトで情報を発信します。防災に役立つ情報もまとまっています。
●多言語情報サービス INFO KANAGAWA(8言語)
(かながわ国際交流財団)
毎月3回程度、外国人住民向けの生活情報を多言語でメール配信しています。災害時にも役立つ情報を発信します。災害に備えるためにも、保護者に登録を促してみてください。
この漫画は、日本の特有のものについてのエピソードです。そして言葉にしないと伝わらない文化・習慣についてのエピソードでもあります。日本で育った人にとっては、「上履きを持ってくる」「上履きは週末に持ってかえる」というのは「あたりまえ」かもしれませんが、その経験がない保護者にとってはその「あたりまえ」が全く想像できないことがよくあります。例えば、園や学校で上履きを使用する国や地域はほとんどありません。
最初に少し触れましたが、保護者の立場から見ると次のふたつのことがわかりません。
1.上履きとはどのようなものか
2.金曜日に上履きを持って帰り、月曜日に持ってくる理由
外国につながる子どもを受け入れるということは、異なる言語、文化、宗教背景を持つ人たちを受け入れるということです。
● 宗教
日本には様々な宗教の人たちが暮らしています。例えば、イスラーム教徒の子どもを受けいれる際は、食事や服装などへの配慮などが必要です。特に食物については、禁忌(タブー)とされる物があり、よく知られているところでは豚肉、酒類(アルコール)が挙げられます。そして、それらを含む加工食品(ゼラチン、コンソメ、みりんなど)なども避けられます。
イスラム教徒であっても、出身国、地域、宗派、個人の考え方によって生活習慣は微妙に異なるため、各家庭への確認が大切になります。イスラームの子どもたちを理解するためにという冊子をKIFが作成しているのでこちらも参考にしてみてください。
その他、ヒンズー教の場合は牛肉が禁忌とされています。宗教による違いと注意すべきことを事前に保護者と話し合うことが必要です。
イスラームの子どもたちを理解するために
https://www.kifjp.org/islamchildren
● 文化
文化上の違いについても保護者から配慮を求められる場合があります。例えば、生まれてすぐにピアスの穴を開けることが重要な意味を持つ文化があります。ピアスを外すように求めても(着用の禁止を説明しても)、幼い頃からピアスをすることが重要な意味を持つ場合、保護者から断られることがあるかもしれません。また、禁忌は文化によって異なるため、子どもの頭を左手で触る、左手で食べ物を渡すといったことがとても嫌がられる場合があります。
「日本語ができない保護者には懇談会の声掛けがされない」という話を外国人の保護者の嘆きとして聞くことがあります。その理由としては、「来ていただいても日本語がわからなくて、かわいそうだとと思うから」「こちらがケア出来ないから」といったことだという説明を保育士から受けたことがあります。これは公平性の観点から考えると差別に当たってしまうので注意してください。
また、最近は「マイクロアグレッション」という言葉が理解されるようになってきました。小さな、微細な、軽微な(=マイクロ)、攻撃性(=アグレッション)という意味です。言葉を口にした本人に、相手を差別したり、傷つけたり、攻撃したりする意図がある・ないにかかわらず、対象となった相手(個人や集団)を軽視したり、侮辱するメッセージを含んでいて、相手に(心理的な)ダメージを与えてしまう言動のことを指します。
例えば、どうせわからないでしょという態度や、逆に見た目だけで「外国人」と判断し「外国人なのに日本語上手ですね」と言ったり、日本語ができないと勝手に推測して英語で話しはじめることもマイクロアグレッションとして考えられてしまう場合があリます。差別をしようと思っていないのにその言動が人を傷つけてしまうのです。
〇〇人はこうだなどと決めつけるステレオタイプもとても良くないことです。
多文化共生社会は、これからも進んでいくと思います。これは日本だけでなく、世界で進んでいます。
ここまでいろいろな視点でお伝えしてきましたが、“笑顔で挨拶 ”から行動を始めるのはいかがでしょうか? そして、人それぞれの出来ることを理解し、お互いを尊重し、それぞれの文化のよいところを理解できるといいと思います。
これからの社会を生きていく子どもたちにとって、クラスに違う文化の友達がいると視野が広がります。それぞれ異なる考え方があるとわかると、考えが深まります。同級生に多様な人たちがいるということは、とても大きなメリットとしてとらえられるのではないかと思います。
発行:公益財団法人 かながわ国際交流財団
〒221-0835
神奈川県横浜市神奈川区鶴屋町2-24-2 かながわ県民センター13階
Tel : 045-620-4466(www.kifjp.org)
漫画・イラスト:星野 ルネ
協力:バイリンガル・マルチリンガル子どもネットBM 子ども相談室(PDF p.9)、綾瀬市役所 市民活動推進課、保育課、健康づくり推進課
2024年1月発行