かながわ国際交流財団 設立40周年

2017年、神奈川国際交流財団は
設立40周年を迎えました。
1977年〜2017年までの年表と、
主要な事業を紹介する連載記事をご覧ください。

かながわ国際交流財団 設立40周年

かながわ国際交流財団 40年のあゆみ(連載記事)

1977年の設立以来、2017年で40周年を迎えたかながわ国際交流財団(KIF)。
どんな時代状況の中で、どのような活動を行ってきたのでしょうか。
主な事業をご紹介しながら振り返り、将来を展望したいと思います。

KIFの歴史は、多くの方のご協力で進められてきました。長期間、多岐にわたる事業の中で、現在のスタッフには見えないことも多いと思います。

当時の様子についてのコメントや、お気づきの点などありましたら、ぜひ当財団へご連絡ください。

※一部のスマートフォンでは、文字が正しく表示されないことがありますので、その場合にはPCで閲覧していただくようお願いします。

第12回 外国人住民に情報を届けるための取り組み

かながわ国際交流財団(KIF)の40年間の活動をふりかえる連載の第12回です。
今回から、外国人住民との共生に関わる事業についてご紹介します。
※画像はクリックすると拡大します。人物の肩書は当時のものです。

●外国人住民に生活情報を伝えるためには

KIFは現在、県内の外国人住民や支援者を対象に6言語による多言語情報メールサービス「INFO KANAGAWA」を発信し、生活情報や「子育て支援」「教育」「医療」「防災」などのさまざまな情報を定期的に配信しています。言葉の壁による情報不足や、出身国との制度や生活慣習の違いは、外国人住民の生活上の困難の大きな原因となっているため、外国人住民が必要な情報を得て、安心して生活し、社会参加できる環境を整備できるよう活動しています。

「INFO KANAGAWA」の配信を始めるきっかけになったのは、2004年度から2007年度に実施した「多言語生活情報の提供・流通」に関する調査研究です。当時、神奈川県が行った「神奈川県外国籍住民生活実態調査」(2000年)や「外国籍県民かながわ会議」での協議等において、「多言語情報はたくさん出されているけれど、当事者のもとに届いていない」という声がたびたび上がっていました。

その状況をふまえて検討委員会を組織し、第一期(2004年度)は、「情報を発信する側」である県内の国際交流・社会教育施設、国際教室設置校、教育委員会等を対象としたアンケートとヒアリング調査、第二期(2005年度)は、「情報の受け手」である外国人住民を対象としたインタビュー調査を行いました。

「情報を発信する側」から見えた課題は「翻訳にかける費用の確保が難しい」「少数言語の翻訳者や資料が県内には不足している」など、コスト・人材の両面にあり、広域での情報共有を進める必要があることがわかりました。「情報の受け手」である外国人住民へのインタビューでは、自治体等が発行している多言語情報がほとんど知られておらず、外国人相談員や通訳者などの情報流通を媒介するキーパーソンにさえも届いていない例が多くみられました。調査でわかった「多言語情報の流通に関するおもな課題」は、次のとおりです。


<多言語情報の流通の課題>
※2006年3月発行「多言語生活情報の提供・流通 その2」第2部考察と提言の「総論」から抜粋
内容は2006年当時の状況を反映しています


1)情報流通の基本的な課題-情報を「届ける」
手で渡す、口頭で説明するなど、人が直接関わらないと情報は伝わりにくい。対象となる人びとが集まり、情報が交わされる「場」に情報を届けることが重要。

2)広域での情報の共有
広域での情報の共有が進めば、さまざまな多言語資料が利用しやすくなり、作成に係るコストを減らすことができる。このためには、情報のデジタル化が鍵になる。

3)キーパーソンへの情報提供
多言語生活情報の発行・更新に関する情報を、各コミュニティのキーパーソンに確実に伝える仕組みを整備する必要がある。

4)さまざまなメディアの活用
多言語情報のデジタル化を進め、インターネット上からダウンロードできるようにすれば、誰もが入手しやすくなる。エスニックメディアとの連携も課題。

5)情報のつくり方、中身の検討(外国人当事者の関与)
多言語化する情報の対象については自治体が指針で定める必要があり、ルビ振りについての規定も望まれる。また、情報ニーズを把握している外国人当事者が情報作成の企画段階から関わることも重要。情報の更新計画と翻訳の質の確保も大事。

6)通訳・相談と人材の育成
多言語情報はそれだけで問題を解決できるわけではなく、通訳・相談の現場で利用されてこそ活かされる。専門的な知識と経験を持つ通訳者・相談員は不足しており、支援人材へのサポートと人材養成が急務。

7)防災に関する情報提供
防災情報の提供のしかたに工夫が必要。エスニックメディアの利用、外国人向け防災訓練の実施、携帯電話を用いた情報提供などが考えられる。


「多言語情報の提供・流通」調査は2004年~2008年にかけて実施。
下記の3テーマで3冊の報告書を発行しました。
①国際交流協会や教育機関等多言語情報を提供する側に対する調査
②受け手となる外国人住民への調査
③効果的な伝達の方法

▼下記ページからPDFをダウンロードできます
https://www.kifjp.org/shuppan/report


●多言語情報メール「INFO KANAGAWA」の誕生

第1期、第2期の調査結果を受けて、第3期(2006~2007年度)には、災害時の情報提供も念頭に、具体的な外国人住民への情報提供の手段を検討し、外国人住民の比率が高い自治体の中から厚木市、大和市、愛川町の協力を得て、スペイン語、ポルトガル語、英語、やさしい日本語の4言語でメール配信するモニター調査を実施しました。

外国人モニターに「幼稚園児募集」「市営住宅案内」などの情報を定期的に携帯メールで配信し、アンケートを行ったところ、「受信情報を友人知人と共有した」という回答が9割、「災害時にも役に立つ」という回答も9割あり、携帯電話による情報配信の到達度と拡散力、満足度が高いことがわかりました。そこで、県内の自治体に外国人住民への電子メール配信の仕組みを提案するとともに、KIF自身の事業として、多言語メール「INFO KANAGAWA」の配信を開始することになりました。

2008年度の配信開始以来、配信言語を増やすなどの見直しをおこないながら、外国人に役立つ情報を定期的に配信して、10年がたちました。配信する情報内容は、保健福祉・教育・防災などの生活情報や、通訳・相談窓口、交流イベントなどです。アンケートにより、読者のニーズを把握し、関心を持って購読を続けてもらえるよう、フリーマーケットやキャンプ場についてなどお楽しみ情報も提供しています。

メール配信の登録者は2018年10月末現在で8,952名(英語3,934名、やさしい日本語1,814名、中国語1,235名、タガログ語1,124名、スペイン語504名、ポルトガル語341名)です。県内各地の外国人コミュニティのイベント等で少しずつ広報を行い、外国人キーパーソンや関係団体の方々も協力してPRをしてくださった結果、読者は増加してきました。

また、ここ数年は、県内の外国人コミュニティ、自治体、国際交流団体等が、「INFO KANAGAWA」の配信情報を、Facebookでの紹介やメール転送、ニュースレターへの転載、窓口でのプリント配布、ローカルFM局でのラジオ放送など、二次的に活用されることも増え、関係団体の方々との連携により、以前よりも多くの方々に情報が伝わるようになったと実感しています。


INFO KANAGAWA の情報
(やさしい日本語、英語、中国語、スペイン語、ポルトガル語、タガログ語版)
https://www.kifjp.org/infokanagawa
(ベトナム語版はFacebookで配信)
https://www.facebook.com/pg/kanagawaIF/notes/?ref=page_internal

バックナンバー▼
https://plus.combz.jp/backnumber/index?oid=xquu6977&gid=3

外国人住民むけ紹介動画▼
https://youtu.be/4fSzqST-kr8
https://youtu.be/hu2zomyODVk
https://youtu.be/ocppgNSG2aw


●KIFが作成してきた多言語ツール

前述の<多言語情報の流通の課題>にあるように、多言語情報の作成と更新維持にはコストがかかり、個別の自治体等が発行する情報を全て多言語化することは困難です。そこで、神奈川県全域を対象に活動するKIFは、県内の市町村や国際交流団体が広域で活用できるよう、様々な多言語ツールを作成してきました。

調査結果を踏まえ、作成の際は「外国人当事者の意見を聴き、ともに作成」「情報や文字数を絞り込み、イラストを多用」「支援者もわかるよう、日本語も併記」「重要な用語は翻訳だけでなくルビ振りやローマ字も併記」「手に取ってみたくなるようなデザイン」などに努め、地域のエスニックレストランや食材店、外国人児童生徒が多い小中学校などで配布したり、外国人コミュニティ、通訳者・相談員、国際交流団体、日本語教室、関連する行政部署等と連携し、情報の普及を図っています。

これまでに作成してきたツールの一部をご紹介します。すべてKIFのホームページからダウンロードやアクセスができます。

□「多言語医療問診票」 ~NPOと協働で運営~
NPO法人国際交流ハーティ港南台が外国人住民の医療における言語支援の必要性から、1997年に医師や翻訳者の協力により、外国語による問診票を作成したことが始まりです。当時開設したばかりだったKIFのホームページに問診票を掲載して広く紹介することになり、その後、ハーティ港南台とKIFが協働で言語や診療科目の拡充や改善を行ってきました。現在、18言語、11診療科目の医療問診票を提供しています。全国の自治体、病院、国際交流団体等からリンクが張られており、平均して月2万件ほどのアクセスがあります。
https://www.kifjp.org/medical/



□「防災啓発ポスター『災害への備えは大丈夫?』」 ~情報を絞り、詳細はQRコードで~
非常持出袋や備蓄品など災害の備えについて、イラストを多用し、6言語で説明しています。必要な情報をすべて掲載はできないので、詳しい内容はQRコードを読み取って、該当言語のチラシをダウンロードできるように工夫しました。多言語チラシは、地域や自治会で開催する防災訓練などでも活用されています。
https://www.kifjp.org/shuppan/multi



□「災害のときの便利ノート」 ~外国人当事者のアイデアを活かす~
災害用伝言ダイヤル171の使い方や避難所の過ごし方などを11言語でコンパクトにまとめました。事前に外国人キーパーソンにニーズを聞き、「お財布に入るサイズ」「絵がたくさんある方がいい」「自由にメモできるスペースがあるとよい」などの意見が寄せられました。文字は少なめにし、イラストを増やし、最後に書き込みができる空白のページを作りました。一緒に作った外国人キーパーソンの方々が周囲に広めるなど、普及にも協力してくださいました。
https://www.kifjp.org/shuppan/multi



□「外国人保護者・児童のための小学校で楽しく、安全に学ぶための10のポイント」 ~学校を理解するためのシリーズ~
外国人保護者向けに、小学校入学に向けての準備や日本の小学校の特徴、諸制度や相談先などの情報を6言語で紹介しています。入学説明会や学校での個人面談、編入時の説明などに活用されています。カラーのイラストを使い、手にとってもらいやすいデザインを工夫しました。「外国人保護者・生徒のための中学校生活を充実させる10のポイント」もあります。
https://www.kifjp.org/shuppan/multi



□「動画『日本の子育てシリーズ』」 ~映像で伝える~
外国人住民に日本の子育て支援サービスを知ってもらうため、多言語で「外国人住民のための子育てチャート」を作成し、市町村の母子手帳交付窓口や医療機関で活用していただいています。さらに理解してもらうためには、映像で伝えるのが効果的であることから、7言語で動画「日本の子育てシリーズ」を制作しました。テーマは「子育てチャート」「母子手帳ってなに?」「母子訪問について」です。Youtubeで閲覧することができます。
https://www.kifjp.org/child/chart




●災害時の情報提供のしくみ

2011年の東日本大震災の際には、神奈川でも多くの人が経験したことのない揺れに襲われ、電気や公共交通機関がストップする非常事態の中で、KIFは3月11日の夜から「INFO KANAGAWA」を配信しました。翌日から、通常の倍の頻度で災害に関わる情報を配信し、ホームページで多言語の災害情報を発信しました。「INFO KANAGAWA」の読者からは地震に関する相談が電子メールで送られてきました。平常時に情報提供を行っていることが、緊急時の連絡手段となることの価値を改めて認識することができました。

1年後の2012年3月には、神奈川県とKIFの間で協定を結び、県に災害対策本部が設置される規模の災害時には、県国際課とKIFの共同で「神奈川県災害多言語支援センター」を立ち上げ、運営することとしました。同センターは、かながわ県民センター13階のKIF横浜事務所と神奈川県庁の2カ所に設置し、神奈川県の災害時通訳翻訳ボランティア等の協力のもと、支援活動を行う予定です。



大規模災害の際に運営される「災害多言語支援センター」

県災害多言語支援センターの役割は、外国人住民への情報提供と相談対応・通訳支援です。情報提供については、災害情報をやさしい日本語や外国語に翻訳し、県ホームページやKIFのホームページ「災害時の多言語支援情報サイト」に掲載するとともに、「INFO KANAGAWA」でメール配信を行います。相談対応・通訳支援については、通訳が不足している市町村の窓口に対し、電話通訳を行ったり、外国人の皆さんからの相談に直接応じます。災害時にスムーズに活動を始められるように、毎年、センターの設置運営の訓練を実施しています。



2012年度に平塚市で実施した災害多言語支援センター設置運営訓練

県内では、横浜市、川崎市、相模原市、大和市でも、大規模災害時に外国人住民への情報提供を行う支援センターを市および国際交流団体が立ち上げることになっています。そこで、センターの設置運営に関わる市と国際交流団体の両者に呼びかけて連絡会を開催し、連携と棲み分けのために業務内容や体制、訓練の方法などに関する情報交換や研修を行っています。



●多言語支援センターかながわの運営スタート

2017年度からは、神奈川県が新たに設置した「多言語支援センターかながわ」の運営をNPO法人多言語社会リソースかながわ(MICかながわ)と共同で受託しています。多言語支援センターは、外国人住民や来県外国人への情報提供および通訳支援を多言語で行う窓口「多言語ナビかながわ」の運営のほか、外国人住民と接する仕事にかかわる支援人材の育成、ベトナム語・タガログ語など通訳者が不足している言語の専門人材の確保および育成を行っています。

「多言語ナビ」では、タガログ語、ベトナム語のほか、英語、中国語、スペイン語、やさしい日本語で、日常生活に必要な情報や生活習慣に関する問い合わせに対応しています。外国人が適切な援助機関につながれるよう案内する窓口です。通訳制度の案内も行っています。外国語ではベトナム語、タガログ語の問い合わせが多く、内容は多岐にわたります。行政からの簡易な電話通訳の依頼や、多言語資料の問い合わせにも応じています。

<多言語情報の流通の課題>にあるように、多言語対応で、相談や情報提供を行う人材が対象者の文化的な背景や問題解決のための専門知識を身につけることが重要です。これをサポートし、人材を養成していくことが、いまもなお、必要とされています。多言語支援センターでは、適宜研修を実施し、言語スタッフの能力を向上させています。また、共同運営者のMICかながわと連携し、ニーズの高い言語の通訳者の養成にも取り組んでいます。

どうすれば外国人住民の方々に必要な情報を届けられるかという調査から出発した情報提供事業ですが、これまで多言語資料やツールの作成を積み重ねてきたところに、多言語支援センターの運営が始まったことにより、ニーズ把握と情報提供のチャンネルが増え、情報普及の循環をつくれるようになりました。

多言語情報を届けるためには、まず、間に入る「人」が最も大事なことは、情報手段が多様化した現在も変わりません。KIFと外国人住民の間を媒介してくださる地域の皆さん、様々な団体、行政の方々と連携し、今後も必要な情報を必要な方に的確に伝えられるよう、新しいチャレンジをおこなっていきたいと考えています。

次回は「外国人コミュニティとの連携」についてご紹介します。

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